始動の夜明け

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これ以上何を言っても、仕方がないと思ったのだろう。 「まあ、いい。貴方の首尾よりも、問題は……SD機関だ」 「そうですね。何と言ってもエーネゲルス神殿ですから、多少なりとも動きはあったでしょう。大気を震わせた魔力の波動を考えれば……覚醒も間近ではないかと」 その覚醒が誰の事を指しているのかは、二人の間では暗黙の了解だ。 仮面の女の声に、期待のような色が混ざる。 「では、直に……」 「まだその時ではありません。今覚醒して貰う訳にはいきませんから」 焦るなと釘を刺す青年に、女は仮面の奥で「くっ……」と声を詰まらせた。 「ですが、貴方が放った駒には、働いて貰わなければね。……期待していますよ」 薄く笑みを浮かべたまま、青年は女の肩を叩く。 闇に溶けるように消えていく青年を睨み付け、女は気を取り直したように大きく息を吸い込んだ。 まだ覚醒させる訳にはいかないと言う詳しい理由を知るのは、青年だけだ。 どんな複雑な事情が横たわっているのかは知らないけれど、逆らう訳にはいかない。 もどかしい、回りくどいと、歯痒い思いを噛み殺しながら、女もまた自分の役割を果たす為に森を後にした――。  
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