深淵の紫水晶

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「……何ですか?」 「彼が貴方を欲しがる理由、どうしても解らないの。セレスさん、貴方……何者?」 何者なのか知りたいのは、セレスの方だ。 マグダレーン・ハーグリーと言う偽名だけではなく、宙に浮いた彼女の正体。 「契約を交わした悪魔から、何も聞いてないんですか?」 「尋ねているのは私よ。そうやって煽れば、私が口を滑らせるとでも?」 そんなつもりは無かったのだが、マグダレーンは不愉快そうに眉を寄せる。 だが、セレスを欲する理由なんて、恐らくは一つだけだろう。 例え、ヴィンセントに膝を折る悪魔であろうと、彼とは全く関係のない悪魔であったとしても、ただセレスが……シビルだからだ。 「私は、私です。それ以外の答えなんてありません」 「誤魔化すの?まあ、いいわ。貴方を差し出せば、私は解放される……それで充分。貴方には感謝してるもの」 クスクスと笑ったマグダレーンの言葉に、セレスの喉が音を立てて上下する。 悟られてはいけない動揺が、面に出てしまいそうだ。 「……解放?」 「貴方が最後の生贄。ゲームオーバーよ、セレスさん」 「待っ……!」 スッと後ろへ下がったマグダレーンに伸ばした手が、固いモノにぶつかる。 その瞬間、向き合っていたはずのマグダレーンは、鏡に映る自分の姿に変わった。 まるで最初から、同じ空間にマグダレーンが存在していなかったように。 無音の世界、無限の鏡。万華鏡の中へ閉じ込められたかのような錯覚に見舞われる。
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