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電話のベルが鳴っている。
アパートのドアを開けようとしていた里子は、慌てて部屋に飛び込んだ。
「――もしもし、どなた?」
「里子、元気にしとるね」
久しぶりに聞いた優しい声だった。
「おばあちゃん……おばあちゃんなの!」
「もうすぐ卒業じゃろ。よう頑張ったな」
「うん。あっという間の四年間だもんね。あーあ、早く帰りたい」
九州の田舎町から、たった一人で上京して来た里子にとって、祖母からの電話は、両親からの仕送り以上の喜びがあった。
「卒業したら、そっちで就職するとね?」
「ううん。もちろん帰って来るわよ。私はやっぱり、おばあちゃんのそばにいないと」
「でも、就職先は決まってないんじゃろ」
「何とかなるわよ。もしもの時は、おばあちゃんの世話係、私がやってあげるから」
「そうか、嬉しかねえ」
祖母が楽しみにしていることは、バイトが忙しいとって帰郷しなかった里子が、卒業して帰って来るということだった。
「卒業のお祝いにね、あんたが欲しがっていた物ば送ったけん」
「私が欲しがっていた物、って?」
「ハイヒールたい。黒いハイヒールば欲しかて言いよったろ」
「ホントに! ありがとう、おばあちゃん!」
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