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彼女の記憶はそこで途切れる。
結局その日も親友と夢の中を駆けずり回ってしまった。
それ故に、ふと目覚めるまでの間、車内で何が起こっていたのかはわからなかった。
わかった事は自分の他に乗客がいなくなっていた事。電車が停車している事。
「やばい。寝過ごした」
呟いて立ち上がる車内には未だ夕陽が差し込んでいた。
相変わらず眩しい。
タタン、と彼女の靴が鳴らす音がやけに大きかった。
やばいなぁ。どの位の間寝てしまったのだろうか。まだ日が落ちていないからそんなに時間は経ってないはず。
そんなことを考えながら扉に近づく。その拍子に外の景色が目に映った。
うわぁ綺麗!
彼女が目にしたのは水平線がくっきり見える大海原だった。
キラキラと太陽の光が水面に反射していて綺麗だ。……綺麗だ?
しばしその場で固まる。自分の呼吸で扉がほんのりと曇っていった。
目をこすりつけてみる。目の前の海は依然として静かに揺らめいている。
頬をつねってみる。目の前には一面の海が広がっている。痛い。
慌てて反対側の扉から外を見てみる。
そこにも広大な海が水を湛えていた。
自分をビンタしてみる。
痛い。
三百六十度水平線が囲む、窓の外。
電車は波に揺られずに、線路を掴んでいる。
それでも彼女は、足元がふらつくのを感じた。
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