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蓮達もまた、彼らの後を追い、ゆるりと歩み出す。
その折に、蓮は災厄に見舞われただろう街並みに視線を向ける。
街からは要所で火の手が上がり、黒煙が立ち上っていた。
遠方から、微かに響き渡る戦撃の音色。
目の前の悲劇は失せるも、そのすぐ先には、未だ戦火に曝された現実が存在する。
それを尻目に、今…自分達はこの場を去ろうとしている。
分かっているつもりだ。
全ての厄介事に拘わってなどいられないと。
それが分かるから、感情に任せた啓介でさえ、今は拳を握り、街を見ようともしていない。
自分達には目的がある。
時間的有余がどれほど在るのかも不透明だ。
だから、無関係な事にいつまでも拘ってはいられない。
けれど、少なくとも、自分には1つの戦局を左右出来るだけの力がある。
それを、先程証明してしまった。
だからなのか。
今、この場を離れる事に、僅かばかりの抵抗を感じているのは。
なまじ強い力を得たばかりに、必要外な正義感が働いているのか、それとも自惚れか。
しかしそれを自覚し、理性的に自身を抑制出来る蓮は、十分に理知的だった。
恐らく、戦禍蠢くこの世界には、先程のような場景が溢れているのだろう。
蓮は、この世界を救いに来た訳でも、変えに来た訳でもない。
際限など、ないのだ。
1度介入しただけで頼みとされた。
あまり、拘わるべきではない。
許容範囲外を求められる前に、手を引くのが最善だろう。
割り切れない感情が燻るままに、蓮はそう結論付ける。
燃える街並みを背景に、己れの有り様を問い続けながら…蓮と啓介の旅が、こうして始まった。
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