力の有り様

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にも拘わらず。 世界の理は、彼に従う。 彼の支配に抗えるものなど存在しない。 蓮は思い知る。 自分の力の一端を。 蓮はこの瞬間に実感する。 己れの業の深さを。 支配と言う言葉の重みを。 「……え?」 蓮は暫し、その光景を前に呆気に取られてしまう。 民衆も、兵士も。 啓介も。 その光景に唖然としていた。 只1人、ラーヴェンキルシュだけが、その事象を毅然と見据えている。 「グルゥ……」 民衆を噛み砕かんとしていたドラゴンが、その寸前で制止し、上体を上げて蓮へとゆるりと向き直る。 まるで、次の指示を待っているかのようだ。 もう1体も、蓮の顔色を窺うように頭を下げる。 「……っ!!?  ぼ、僕が……っ!?」 暫し、理解出来ないでいた蓮は、ようやく悟った。 これは、自分がしている事だと。 ドラゴン達の意識に介入し、今、不完全ながらも操っているのだと。 生物の意思をねじ曲げ、服従させる。 それは…… 「橘!」 ラーヴェンキルシュが叫ぶのと、蓮が魔眼を解除するのはほぼ同時だった。 ドラゴン達は一瞬痙攣した後、再び敵意を剥き出しにして咆哮を上げる。 2体共に、今は蓮しか見ていない。 本能的に、少年を警戒しているようであった。 「ギュオァアッ!!」 「ルオアッ!!」 2体共蓮へと猛進し出すが、当の少年は、それを慄然と眺めているだけだった。 「蓮!!」 自分ではどうする事も出来はしない。 それでも、彼の元に駆け出さずにはいられなかった。 「……なん……っ!」 その直後、蓮の前方を横断する、唐突に顕れた黄金色の奔流。 それはドラゴンの頭部を飲み込み、延長線上の森を消し飛ばした。 最早、民衆に兵士、啓介は状況に着いて行けずに、悄然と、そして唖然としていた。 「……橘 蓮十郎。  お前は何をしている?」 いつの間にか蓮の目前にまで移動していたラーヴェンキルシュが、表情険しく詰問する。 彼女の右手には、黄金色の両刃の刀剣らしきものが握られていた。 柄の先端、柄、鍔、剣身のそれぞれが一体のように見えて微妙に離れている。 形を模しているだけで、物理的な剣とは言い難い。 ラーヴェンキルシュの周囲を、仄かな黄金色の粒子が舞っていた。 先の奔流は、恐らく彼女が放ったものだろう。
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