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「……」
険しく詰問するラーヴェンキルシュに対し、蓮は目線を逸らし、唇を引き結ぶ。
「何故魔眼を解いた?
私が介入しなければ、お前は死んでいたぞ」
訪れたかもしれない結果を、彼女は臆面もなく突き付ける。
それでも、蓮は己れの行動を改めようとはしなかった。
「……だとしても、僕は、この先生き物には直接使わない」
蓮は、自身の所業を嫌悪し、自責の念に駆られていた。
それは偏に、今も行方の知れない幼馴染みに起因している。
「例え自分が死んでもか?」
「死んだとしても、殺す事になっても。
僕は、意思だけは奪いたくない。
その為に、力は使わない」
蓮は、頑なな意思の元に、己れの力に制約を課す。
あまりにも強大な、魔眼の力を手にした蓮。
然程意識はしていなかったものの、胸中には、確かな慢心と傲りが内在していた。
先の瞬間まで、それは知らぬ間に肥大化していた。
けれど。
生物の、人の意思を強制的にねじ曲げ、歪める行為を、蓮は許容出来なかった。
世界の理を意のままに出来るのに、それを出来るとは思っていなかった。
蓮の中から、急激に熱は消えてゆく。
力を振るえる事への憧れや高揚感、愉悦は最早失われた。
幼馴染みの行方が分からず、方々を宛てなく捜し続けた日々。
蓮と啓介に家族、警察は、何か犯罪に巻き込まれたのではと考えていた。
月日は流れ、充てにならない周囲に変わり、自分達で向き合う決断をする。
自由意思を奪い、可憐で陽気な少女を卑劣に拐った犯罪者に立ち向かう、その為に。
そう目指していた自分が、今……人間ではないにしろ、生物の尊厳を踏みにじる、同等の行いをした。
そんな自分を、蓮は許せなかった。
少年は、追悼を胸に秘め、ラーヴェンキルシュに頭部を吹き飛ばされ、無惨に地に横たわるドラゴン達を見据える。
忌むべき悪行を容易く成し得る自分自身を、蓮は、嫌悪せずにはいられなかった。
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