気付かない振り

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「とりあえず、これ、お部屋まで届けるの手伝いましょうか?」 恥ずかしいさを隠すように、エレベーター前でボタンを押しながら言いました。 「そうだね、そうして貰えると助かる。」 エレベーターの中で、今日、一週間の出張から帰宅して、ポストを見るとパンパンだったと説明されました。 持てるだけ持とうと、ポストから引っこ抜いて、取り忘れがないか確認したら、私のメガネが見えたとの事。 「何か、ゴソゴソ音はするけど、あまり気にしてなかったから、メガネが見えてビックリした。」 「驚かせてゴメンなさい…。」 わざと怪しい行動をしたんじゃないんだけどな…。 話をしていたら、エレベーターが5階に止まり、ちょっと歩くと部屋の前に着きました。 鍵、どうやって出すんですか? 両手に抱える荷物。 空いているのは、私の右手。 「ごめん、右のポケットの中から出して。」 えっ?! マジで?! ほらっと、後ろを向かれて、スーツのポケットを見せられます。 右のポケット…。 他人様のポケットに手を入れるって、いいのでしょうか? モタモタしていると、また荷物がずって落ちそうです。 深く考えちゃいかん。 …サラッとね。 「…お邪魔します…。」 おずおずと、ジャケットのポケットに手を伸ばすと…。 「違う違う!下。」 え…。 ズボンでしょうかっ?!
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