温度

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ドアを開けると、スーツの男性さんは、よいしょっと荷物を運び入れて、靴を脱いで、スタスタと中へ入って行かれました。 「入って来て~。」 えっ? いや? おかしくないですか? そろそろ夜中の10時前。 ご家族に迷惑では? 「あの、もう遅い時間ですし、ご家族にご迷惑かと…。お財布のお詫びは、また後日お伺いしますので、今日は、これで失礼させてもらっても宜しいでしょうか?」 恐る恐る声をかけます。 「いや、お財布の件はもういいよ。」 荷物を置いて戻って来られた男性。 和やかな笑顔です。 取り敢えず、預かっていた荷物と、お財布を返します。 「いや、そういう訳には…。拾った事と、破損してしまった事は、別の話だと思うので…。」 思わず、大きな声が出ます。 仕事柄、声は大きいです。 耳の遠ーいお年寄りに話しかける毎日。 腹筋は割れていなくとも、喉は強くなるというか…。 「ごめん、中入って。ご近所に怒られちゃうから。」 あ、ゴメンなさい。 思わず玄関に入り、パタンとドアを閉めてしまいました。 「…なので、また後日連絡させてもらいます。私の連絡先お伝えしておきます。」 ゴソゴソとカバンから、メモとペンを出そうとすると…。 「そのカバンの裏地に使ってる布、うちの店のだよね?作ったの?」 「あ、はい。簡単なものしか作れませんが…。すごく柄が可愛くて、一目惚れでした!!カバンを覗き込むたびに、楽しくなるんです。」 「そっか、うちのお客様だったんだね。ありがとうございます。その布、俺のデザインなんだよ。だから、なんか、そうやって形にしてくれると凄く嬉しい!!」 私の頭を、グリグリしながら満面の笑顔をいただきました。 うわっ、これはこれで…かなりの何だ…ときめきポイントゲットな感じですね。 久しぶりに、男性にグリグリされましたね…。 「ごめん、思わず触っちゃった…。」 ま、いいですけど。 良いモノ見せてもらったので。
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