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「あれは、僕たちが4歳の時だから、16年前だろうか」
そう言って、アポロが話し始める。
僕は、ワイングラスをアポロに差出して 白ワインをついであげた。
「ありがとう、姉さん♪ 『紫桜』があると言われる、トラキア諸島にある『ティリス』という小さな島。 僕ら、家族で旅行に行ったんだよね」
――アポロには、そんな記憶なんだろうな。
旅行と言うか――
「正確には、トラキア諸島にある トラキア国へ訪問しに行ったんだ」
「えっ、そうだったの」と驚くアポロの顔。
僕は、続けた。
「当時、小さかった僕等。 行きは、家族4人一緒で。 帰りは、お父様だけ一人残って、数日後に帰ってきましたから――」
額に指を当てて、必死に思い出を辿る。
「詳しい内容は分からないけど――。 グリークの第一の王であるゼス王からの何らかの指令があったんだと思う。 【大弓】と【弓】の王珠を持つ、お父様とお母様が任命されて 出向いたんでしょうね。 『紫桜』の見学は、ついでだった気がします」
アポロも真剣になって僕の話を聞いている。
「そしてそこで出会ったのが 白い翼を持つトラキアの王族に仕える獣、王獣『ヘブンズクロウ』。 僕らは『クーちゃん』って名付けたんだよね」
人差し指を立てながら、得意げに話すアポロ。
楽しい記憶は、覚えているものだ。
「その巨大な白烏の背中に乗せてもらって、空を飛ぶ景色は最高だったね」
両手をばたばたとやって、まるで子供のようです。
トラキア国王とその家族への挨拶が終わった後で、お父様が操り方を教えてもらった『クーちゃん』と一緒に いくつもの島を超えて ティリスに辿り着いた。
ティリスは、グリーク国最南端にある島『オケナワ』と同じくらいの大きさで、コバルトブルーの海と緑の草原が豊かな無人島だったと思う。
「高さ333メートルの崖の上にある『紫桜』の周りを飛行しながら、桜が変わる瞬間を眺めていたっけ」
懐かしい思い出に浸る二人。
ワインは、既に1本開けていた。
「姉さん、おかわり。 そして、キノコチョコも♪」
「はいはい」
新しい白ワインを出して、頭のラベルにナイフを入れて封を開ける。
――アポロも知っていると思うが、その1年後にトラキア国は滅んだとされている。
その後、トラキア国についての噂は聞いていない。
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