第1話 妹は心配性

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 季節は夏の8月10日。時刻はまだ太陽が天高く輝く16時。僕は駅前のバスターミナルに立ち、額から滲み出る汗をハンカチでおさえながら空を見上げていた。 「あづい……」  遠くに見えるビルの屋上に大きな電光掲示板を見つけた。眩しさに細めた目をさらに細くして見ると、そこには37度という数値が刻まれていた。 「……ぢぬ」  真夏に相応しい問答無用の猛暑日だ。のろのろとした動きでハンドバッグから携帯電話を取り出してインターネットに繋ぐ。表示されたメニューから『今日の天気予報』をクリックする。今日の天気、曇り時々雨 降水確率30パーセント。今日は全国的に曇り、だそうだ。 「うーん……」  携帯電話を仕舞いながらもう一度空を見上げる。 「騙された」  ぽつりと愚痴を零す。空は雲ひとつない日本晴れ。風もほとんど吹いていない。ジッと立っているだけで肌に突き刺さるような直射日光と、アスファルト舗装された地面からの照り返し熱で、汗がプツプツと噴き出してくる。  天気予報を信じたばかりに今日は日傘なんて持ってきていない。昨日見たテレビでは、天気予報が当たる確率は年々上がっていると言ってたのに、昨日の今日で早くも裏切られるとは……。 「やっぱりこの時期は折りたたみの傘を常備するべきなのかな……?」  とは言うものの、『折りたたみ』でも傘は傘。結構な大きさだ。手持ちのハンドバッグに入れると場所を大きく取られるし、なにより重い。出かける際は手持ちの荷物を極力なくしたい僕としては遠慮したいところだ。
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