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ベンチに座りなおすと同時にバッグから電子音が流れた。音楽からかかってきた相手を特定しつつ、二つ折りの携帯電話を開く。予想通り、画面には僕の一つ下の妹の『四条椿(しじょうつばき)』の名前が表示されていた。左隅のボタンを押して携帯電話を耳にあてると、聞き慣れた声が耳に届いた。
『もしもしー。お姉ちゃんだよね?』
「なんで疑問形……携帯なんだから僕しか出ないって」
『かけ間違いってこともあるでしょ?』
「だったらもう少し誰が出てもいいように丁寧に……まあいいや。で、何の用?」
だいたい予想はつくけど、一応聞いてみる。
『本当に迎えに行かなくて平気?』
「またそれか……」
昨日あれだけ『迎えは不要』と僕が突っぱねたことでけりがついたはずの話題を蒸し返す椿。ちょっとしつこい。
「ちゃんと地図もあるし、携帯のナビもあるから大丈夫だって昨日も言ったよね?」
『だってお姉ちゃん方向音痴だから心配で……』
「うっ……」
痛いところをつかれて返す言葉がない。って、これは昨日と同じ流れじゃないか。
「え、駅からバス乗って、降りて5分なんだよね? それくらいじゃさすがの僕も迷わないよ」
『うーん、そうかなあ…』
「そうそう」
正直100パーセントの自信はないけど、椿を納得させるには嘘も必要だ。
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