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「ははははははは!あははははははは!」
嵐のようにけたたましく副会長が退室した生徒会室には、俺の渇いた声だけが響いていた。
多分一生分笑っただろう。もう無理はしないでおこう。
「まったく、無理しちゃって」
俺とは違う意味で散々笑い続けた笹原もようやく落ち着いたらしく、優しいトーンで俺に声をかけた。
「別に無理して笑ってたわけでもねぇよ。心の底からあのアホ面を笑ってやったんだ」
「そっちじゃなくて、勉強の方。ちゃんと寝てるの?」
「ああ、テストが終わってからはぐっすりだ」
「ほら、無理してる」
クスクス笑う笹原に、俺はそれ以上の言葉を繋ぐことができず、息を吐いた。
溜め息ではなく、安堵の吐息。
「くそ、あいつホントバケモンだよな。あの成績維持しながら身体能力も全国クラス。俺にはとても真似し続けられねぇよ」
「須藤も可愛いとこあるねー。意地張っちゃってさ」
「まぁな。あれでしばらく、翔吾と春美が家でイチャつくことも減るだろ。ざまぁみろ」
「そのためだけにそれだけの努力を……ごめん、私何故だか須藤のこと尊敬できないわ」
「別に、する必要ねぇ。そのためだけってわけでもねぇしな」
笹原は首を傾げ、俺はそれに答えるため立ち上がった。
「お前のためでもあるって言ってんだ。いや、俺自身のため、かもしれない」
「あ……」
俺の言いたいことを即座に察し、笹原は僅かに頬を染めた。
「たった一度だが。俺は俺の力だけで、翔吾に勝った。これを、俺は誇りに思う。俺自身が認めた俺だから、これでやっと好きな女に胸を張って告白ができる」
日が傾き始め、夕日が生徒会室の窓から差し込む中、俺は笹原と向き合い、言葉を紡いだ。
「今までずっと側に居てくれて、ずっと支えてくれたお前のことを、俺は一番大事な存在にしたい。俺と、付き合ってくれ」
右手を差し出す。
心臓が口から飛び出そうなほど、激しく脈打つ。
こんな感覚、多分初めてだ。
初めて、春美以外に――春美以上に心奪われた女の子。
いつも隣に居てくれた彼女とこうして向き合うのは、思っていた何十倍も恥ずかしい。
けど、それがいい。それが、なんだか嬉しかった。
「はい。こんな私でよければ、喜んで」
そっと俺の手を握った笹原の手は、想像していたよりもずっと柔らかくて、ずっと暖かかった。
Fin.
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