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朝六時、春の朝はまだ寒い。
冷たい水で顔を洗うと、一瞬で目が覚める。眼鏡をかけ直して、今いる二階から一階に降りると祖父がすでに起きていた。
「おう、今日も悪いな」
悪びれた様子もなく紡ぐと、俺の前に大きな箱を置いていく。
「全部練ってあるから形整えてオーブンに入れてくれ」
「あいよ」
壁に掛けてあるエプロンを身に付けると、言われた通りに一つ一つ形を確認していびつなものがないかを確かめてから、オーブンに入れていった。
俺の家はパン屋を営んでいる。焼きたてパン工房『まるえ』。祖父の丸衛次郎が店主を勤め、丸衛家の長男である俺、丸衛郁穂も時間が許す限り店を手伝っている。
たまに中学一年生の妹も手伝っているが、危ない仕事もあるので基本的には家の番を担当しているが、祖父と俺だけではかなり苦しいのが現状だ。
しかし、最近は客足が減って売り上げが下降しているためにどんどんと作る量が減っていき、今では全盛期の半分以下まで落ち込んでいるのだ。
六時に起きて約一時間、店を手伝いそれから朝食を三人分作る。朝食を作るのも俺の役目なので朝から忙しいことは言わなくても分かると思う。
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