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「トマスさん、この料理って全部アナタが作ったんですか?」
アズは白身魚のムニエルを食べているのだが、食べ方は上品な方ではない。
ナイフは置いて、フォークだけでモソモソと食べている。
「僕は料理なんて出来ないよ。今、お酒の買い出しに行っている妻が作ったのさ。美人だぞ」
トマスは食事の半ばで、家庭用の据え置き型のイアーノウのスイッチを入れた。
ダッホイは都会であるからイアーノウへ向けた思考波塔がある。
数人のF体のチカラを使い、ニュース、音楽、映画の、音と映像が飛ばされている。
食事を楽しむ3人の頭の裏側に、霧の中に浮かび上がる未明の湖、そしてシューベルト。
「ところでアズ、何故日本人がダッホイにいるんだい」
トマスは蒸留酒の瓶にコトコトと音をさせ、また小さなグラスを満たしている。
「僕は日本人ですけれど空賊をやってるんです」
「コラ、アズ!」
テーブルの下でシオンの足がアズの足を蹴ったけれど、アズは続ける。
「空賊には年に1度のイベントが有りましてね、それに参加しているから、僕とシオンはこの街に居るんです」
ムニエルをムシャムシャ。
「本当かい!君達スゴいね!」
トマスはカラカラと笑い、注いだばかりの酒を、喉の奥に放り込んだ。
カチャリ
玄関の鍵は開けっ放しであった。
「ただいまぁ。何だか盛り上がってるわね」
両手に買い物袋を提げてドアを開けたのは、ブロンドの髪の狐顔の女。
(えっ‥‥ラスカ・ラスカには気を付けろ‥だ)
女は、ラスカ・ラスカである。
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