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廊下に立ち、キンキンに冷えた空を見上げると、瞬きをする満天の星々が、今にも硝子の音を立てて、ダッホイの街に舞い降りて来そうである。
鉄の階段を降りて、ラスカ・ラスカは東へ向かう。
「ブラッカのオメガ。推力の源はラムダだ。レプリカはラムダを使う」
それだけ言い残した。
アズとシオンは北を目指す。
北の針葉樹林に、オカルトを隠してある。
中央広場には、アルコールエンジンのタクシーが3台止まっている。
アズは先頭のタクシーの窓硝子をノックして行き先と運賃の交渉を済ませ、財布から7000キランを取り出すと、それをタクシーの運転手に渡した。
高額な料金である。
シオンが後部座席に体を入れ、その隣にアズも座った。
カラカラとなるエンジン音が石畳の道を滑り出すと、細かな振動がタクシー全体を揺らした。
「レプリカ004EEって言ってた」
「‥‥‥」
シオンの言葉に、アズは答えない。
「髭中将を見つけたって」
「‥‥」
それにも答えない。
旧市街を抜け、新市街の高層ビル群を抜ける。
街が尽きると、暗闇の中に北の山々が見える。
「クロッカスが言うにはね、髭中将は良い人らしい」
アズは真っ直ぐに前を見ている。
「柳の好きな様にすればいい」
「シオンの父さんの口癖だね」
アズは何かを確かめる為に、シオンの手を握った。
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