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ダッホイの街は、極東と呼ばれる場所にある。
ひたすら寒く、背の高い針葉樹の森に囲まれている。
道が尽きる所でタクシーを降りたアズとシオン。
覆い被さる様に広がる森の、細い細い獣道を進んだ。
「迷っちゃ駄目なんだ」
道の枯れ枝を踏む度にアズは言った。
それをシオンは、何度も黙って聞いている。
「オカルト、ただいま」
2人が立ち止まった太い木の幹の先、大袈裟に長い、今は単葉のオカルトの翼がある。
アズはラムダナイフを腰から抜き取って、冷たいそれを額にあてた。
黒い怪鳥のあちらこちらが光を出した。
民間人の苦労を吸い上げた機体が呼吸を始める。
「シオン、こんな事は止めて、君と楽しく可笑しく、そしてのんびりと居たいととは思うんだ」
オカルトのキャノピーが煙を吐いて上に開くと、メカニック・ストンコが無理無理ねじ込んだ、ジャーン団のイエロラ3番機のコクピットが舌の様に伸ばされる。
シュルシュルと下に落ちて来たワイヤーの足掛けに、シオンが足を乗せる。
「アズ、そう何度も言わせないの」
「何をさ?」
ワイヤーを巻き取るウインチのモーターがまわる。
「私は谷口貫太郎の一人娘よ」
シオンの体は浮き、次の足掛けにアズも爪先を掛けた。
「ごめんシオン。僕について来て」
北からの風が吹いている。
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