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飛行母艦ミネラダは、キランでも最大級の船である。
軍艦であるから、その医療設備は大都市の病院に肩を並べる。
窓から西陽が射す頃には、シオンも目覚めた。
シャワーを済ませ、アズの隣のベッドで、アズと同じく夜の病院食を、フォークの先でつついている。
小さな流し台がある病室。
ラスカ・ラスカは軍服姿のまま、おろしがねでリンゴを摺っている。
「ラスカさん‥‥」
茶色の軍服の背中に話し掛けたのは、シオンである。
「さっきのアズのお願い、聞いて貰えませんか?」
茶色の軍服は振り返らずに、ただリンゴを摺る作業を続けている。
「シオン、いいのかい?」
アズは、じゃがいもと玉ねぎのスープにスプーンを入れ、シオンは黄色い蒸しパンを指でつまんだ。
「アズ号は、ミネラダの整備士達が、寝ずの作業で修理をし終えている。整備士達に会ったら、挨拶くらいはしておくように」
「‥‥アズ号?」
ヤナギ・アズは、大き目のジャガイモを口に含んで首を傾げた。
その柔らかく煮込まれたジャガイモを奥歯で噛んでいると、病室への来訪者がドアを叩く。
来訪者。
長身で髭の無い、40才前後の軍服である。
「あれ? あれあれ?」
アズのスプーンの動きが止まった。
「アズ君、シオンちゃん、おお、食事を摂れるくらいに回復したんだね」
トマス・カーカーである。
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