ホランの森

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  クロッカスの返事を待たず、ハナマ・ハーは食堂のドアへ向かった。 北にある森の中の建物であるから、ガラスの扉は二重になっている。 食堂の外には、ハナマを待っている茶色い軍服。 アラン少尉である。 茶色いロングコートの肩には、遠くの雲から飛ばされて来た小さな雪の粒が乗っている。 「どうした少尉。こんな所に突っ立って?」 ハナマ・ハーは純朴な愛すべき部下へ笑顔を向けた。 彼等の集団ブラッカは、有事の場合、砲弾の行き交う最前線に身を置かなければならない部隊である。 日頃の軍事訓練の厳しさは、キラン陸軍の中でも突出している。 非日常的とも表現出来る彼等の毎日であるが、ブラッカの結束力は固い。 ハナマ・ハーの掴み所のないこの空気が、隊内の棘を抜いているに違いない。 「12師団司令部からの封書です」 アラン少尉はコートの内ポケットから白い封筒を取り出した。 それを受け取ったハナマはゆっくりと封を開け、1枚きりの報告書の文字を何度も繰り返して読んだ後、両手をわなわなと震えさせながら樹間の空を仰いだ。 報告書には僅か2行の文字。 ──今週末迄にオメガ2機を第7大隊へ移送すべし。 完了次第ブラッカは解隊とする―― 第12師団司令部は、サフスタワーの無力化を本気で考えている。  
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