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アズ号は北の大地の上を飛んでいる。
ホランの森を目指している。
《ザ───ッ これはサフス新国営放送の最終段階の試験波である。地球全ての大地に平等な未来を切り開く為の意識である》
これまでとは違う、はっきりとした言葉がアズとシオンの頭の後ろに届く。
アズはパイロットシートで操縦桿を握り、後ろのコアシートでは、キラキラと光る器具に頭をすっぽりと覆われたシオンが、目を閉じている。
《我々サフス連合は、長きに渡りこのタワーの建設に巨額な予算と莫大な労力を注いで来た》
「サフスタワーが完成したのか‥‥」
「そうなの?」
アズ号〈オカルト〉もブレーンシップであるから、窓が無い。
コアシートに座るシオンが、新物質から得た外界のイメージを、パイロットシートのアズへ送っている。
アズ号は低い高度を、大地の起伏に沿って進む。
シオンがアズに送る外界のイメージ。月の無い夜の森の木々が、アズ号の巻き上げた風に揺れ後方へ流れて行く。
枝々に積もった雪が、星の瞬く空へ渦を巻いて昇る。
そして太平洋を越えて来た試験波は、サフスのワガママが積み重ねられた白亜の塔、山脈の中にそびえ建つ、サフスタワーの映像を闇夜に舞う雪の粒に重ねた。
「デカい‥‥な」
「うん。大きい」
アズが操縦桿を強く握りしめた時、サフスタワーのイメージを飛び越えて来る、また別のイメージ。
「シオン! 鉄臭い」
「アズ、気付くのが遅い! 探索中!」
縄跳び。飛行訓練。遠ざかる大人の背中。
ニヤけた茶色の軍服。
泣いている女の子。
透明のどろどろに満たされたバスタブ。
「鉄の味だらけだ!」
アズは叫んだ。
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