サトゥーマ・ゼアンネの声

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低空飛行を続けているベネネイ。明らかに速度が落ちている。 よく見ると、右と左へ小刻みな蛇行ををしている。 それでもタイガの地形に沿って飛べているのは、操縦桿を握るパイロットに上等な技量があるからだろう。 《ベネネイ、聞こえるか? こちらはオカルトだ。あなた達を落としたくない。不時着しろ》 アズはベネネイに思考波を送る。 《もう十分ですから。そしてパイロットさん。あなたの後ろ、コアシートに座っているのはおそらく小さな子供だ。そしてかなり疲れているはず。ならばもう良いじゃないですか、そこまでして飛ぶ必要はない》 アズは思考波を送り続け、ベネネイは大きなRを描いて東へ向かう。 《パイロットさん、あなたはベテランのパイロットだ。恐らくはお子さんもいる。C337輸送機の中にいる子供たちはF体。 毎日毎日クリルの溶液に浸けられている可哀想な子達なんだ》 徐々にベネネイの速度が落ちてきた。翼が木々の枝を弾き飛ばす。 ベネネイに追い付いたオカルトはそれと平行する形になり、更に速度を落としたベネネイは、静かに、ゆっくりと木々の間に姿を隠した。 オカルトは東に向け加速を始めたが、その背中に力尽きたベネネイからの思考波が届いた。 《オカルトのパイロット、聞こえるか?》 「何?」 《お節介も程々にしといた方がいい》 「よく言われる」 《キラン領を出るまで、我々は12師団に守られる約束だ。気を抜くな》 アズはそれに答える代わりに、右足のペダルを深くふんだ。
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