東京へ

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モクモクモクモク、中央の煙突から黒煙を吐いて、貨物船は埠頭を離れる。 上等な石炭は掘り尽くされてしまったが、粗悪な石炭ならばキラン領でもわずかに採れる。 船が離岸すると直ぐに、アルミナ・ジャーンは革のコートの裾を翻して海に背を向けた。おそらくはまた不機嫌な顔をになっているのだろう。 「アズ君、どうにもキミは不思議だ。何故、そこまでしてサフスタワーにこだわるんだい?」 欄干に寄り掛かかる茶色の癖っ毛。旧ブラッカ指揮官、ハナマ・ハーである。 離れて行く岸の上では、クロッカスが何時までも甲板の人を見ている。 カモメの鳴き声が若干うるさくて、宙に舞う波の飛沫は冷たい。 「笑わないでくださいよ。死んだ父さん達の遺言なんです」 「笑えるかい、そんなの」 「太陽の翼計画‥‥」 「新月号のパイロットの名前は、確かヤナギだったと記憶している」 キランの陸地が遠のいて行く。 その代わりに、アズとシオンは、記憶の先の鼓動へ近付いて行く。
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