東京へ

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「だ、だだだ」 これで何度目だろう。鉄の船底をカンカンと鳴らして、アズが甲板への階段を駆け上がって行く。 「報告書によると、アズくんはパイロットとしてかなりの腕だ。それが船の揺れには弱い。私にはブレーンシップの、あのフニャフニャした動きの方が出鱈目に気持ち悪く感じるけどもね。」 貨物船の積荷の多くは穀物である。ハナマ・ハーは小麦粉の袋を枕にして目を閉じている。 「アズもワガママなんですよ。自分が好きで乗っているブレーンシップには酔わないんです。波任せとか風任せとかが苦手」 倉庫の非常灯は淡いオレンジ色。 オンボロ貨物船のオンボロ発電機だから、時々ぷつんぷつんと明滅する。 「あんたら日本で降りるんだろう? いいねぇ、自由の国だ」 食事のパンを運んで来た船員である。 (いつから日本は、自由な国になったんだろう) 〈世界のワガママ〉から15年。西日本はサフス、北日本はキランの間接的な支配を受けている。 シオンは船員から固そうなパンを受け取りながら首をひねった。 「サフスタワーが見事に稼働を始めたのさ。あの船員のイアーノウなんて、10年の型落ち。そんなポンコツにまで思考波を届けているらしい」 船員が倉庫を出ると、ハナマ・ハーは起き上がった。 少々、波が高い日である。 船はゆっくりと上下に動いている。
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