東京へ

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「もうだめ‥‥船、無理」 階段の手摺にしがみついたアズの脇を、イアーノウから流れて来るサフスの曲に合わせて、鼻歌を歌う船員が通る。 「よう少年。船酔いか?」 何とも上機嫌である。 ここ15年間、強制ではないのだが、キランではサフスの歌は歌われなかった。 キランの貧しさを、キランの人々は当然サフスのせいだと考えて来たから。 「何だ少年、お前イアーノウを持ってないのかよ。誰からか借りてサフスの曲を聴いてみろよ。イカすぜ。船酔いなんて、一発で治るぜ」 「船員さん、あなたキランの人ですよね?」 「なんだよ、キランの船だ当たり前だろう」 「サトゥーマ・ゼアンネ‥一体何をしている‥」 「はあ? 何だって?」 「サトゥーマ・ゼアンネ‥‥」 頭が痛いし、気持ちがわるい。 サトゥーマ・ゼアンネ。 その名を思い浮かべる度に、記憶の隅っこがチクチク痛む。
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