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「もうねぇ、泳いで日本まで行きたい」
船底まで辿り着くのがやっと。アズは、食事中のハナマとシオンの間に倒れ込んだ。
「アズ、眠った方がいいわ」
シオンは、アズの頭をそっと自分の膝の上に乗せた。
「ところで、ハナマさんは何故日本へ?」
ハナマ・ハーは、キラン陸軍で屈指のエリートだった。そんな彼の退役願いが簡単に受理されたのは、中将ギルネ・ザザの意向が働いたためとまでは、シオンも知っている。
「僕にとっては、ブラッカが全てだったからね。それが無くなりサフスタワーがここまで完璧に動き出したとなると、僕は新しく見つけた希望にすがるしかないのさ」
ハナマ・ハーは体育座りになって、パンをかじる。
「人任せで無責任で場当たり的な考えなのは自分でも自覚してるよ。でも、あれはいけない。サフスタワー、そしてサフス連合は、考えた以上に厄介な代物だった」
痩せた栗色の癖っ毛は、パンを小さく千切りながら口へと運ぶ。
「東日本に勝手居座りのキラン軍の将校には、知り合いが多い。押し付け迷惑は知っての上で、君達の可能性に賭けたい」
──オホン
小麦粉袋の山の向こうから咳払い。
貨物船の乗客は、どうやらヤナギ一行だけでは無かったらしい。
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