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波の高い北の海で、貨物船は止まった。
並走するサフスの駆逐艦も止まる。
貨物船の諦めに満足した駆逐艦は、連装の速射砲の口を空へ向け、艦橋の後ろのマストに赤と白と黄色の信号旗を掲げた。
「ハナマさん!」
アズは背を反らし腕を組んだまま、右隣に立つ元キラン陸軍大佐に信号旗の意味するところを尋ねた。
「あ? あぁ‥‥ へ?」
陸軍一筋17年の元大佐である。
陸軍大学でサラリと教わった海軍の信号旗の内容など、忘れてしまって幾年月。左にいる少年よりも更に上体を反らす事で、その問いに答えた。
「え~!」
アズのデリカシーの無いリアクションを待っていたかの様に、駆逐艦の艦載機格納庫の屋根が開いた。
「おっとっと」
格納庫の中から出て来るであろうブレーンシップに期待して、アズは丸めそうになった背筋を伸ばした。
「えっ!えっ!えっ!」
つんと立った少年の肩がみるみる力を失っていく。
ガラガラと開いた艦載機格納庫の屋根。
「冗談でしょう!」
見るからにオンボロなヘリコプターがローターを回し始めている。
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