斥力じいと記者さんとラムダキー

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「明朝にも、アンタ等の身柄の移送が行われるそうじゃ」 斥力船サザランドのF体。斥力じいは透明なドロドロの中にいる。 ドロドロの透明はクリルの溶液。 爺さんはいったい何年の間、この生活を続けて来たのだろう。 「右手は使えるだろう。食える時に食わんと、大事は成せんぞ」 爺さんの水槽は廊下側にあり、腰のベルトに左手の手首、両足を短い鎖で繋がれたアズとシオンは窓際の椅子に座っている。 2人の前のテーブルには、サザランドの船員と同じ煮豆の入った皿に、丸く固いパンが2つ乗った夕食が置かれている。 「そりゃあ食いますよ。何だかムシャクシャしてるから、ムシャクシャな気分は食欲に向けます」 アズは空いている右の手でガツっと丸いパンを掴んで、馬鹿みたいに大きく開けた口の中に入れた。 斥力じいが入っている水槽には、赤、青、紫、沢山のコードが繋がれている。 「ハッハ。楽しい楽しい。こうして噂のナチュラルに会えるとは、長生きはするもんじゃて」 斥力じいは水槽の中でブクブクと喋っているが、そこは思考波の世界。アズとシオンは、はっきりとその意思を聞いている。 「爺さん。こう言ったら生意気だけど、あなた、そんな歳でもないでしょう?」 固いパンを詰め込み過ぎた。 コップの水を口に入れながら、アズは喋る。 「アズくん、君の能力は認めるがまだまだ若い」 サザランドのF体部屋にいるもう1人が、間に入った。 折りたたみ式のベッドで手帳を開いている、メロウナ・チューリップである。 「F体の平均寿命とか、君、知らないでしょう?」 アズの咀嚼は一瞬止まり、緑色の水の中のF体は、ブクブクブクブク、沢山の大きな泡を吐いた。
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