斥力じいと記者さんとラムダキー

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固定式イアーノウの上で光るブレスレット。 第3物質ラムダの色は赤。 赤い光に乗って、アズの父、柳雪也の記憶が拡散する。 シオンが操縦桿を握るヘリは直進して、斥力を潜り抜けたベラレクスの砲弾はその機体に穴をあけてゆく。 ザ─────ツ ザ─────ツ それは色とりどりのパネルに囲まれた、さほど広くはないコクピットである。 木星の衛星軌道からラムダを載せて地球へ帰って来る、太陽の翼計画の帰還船を迎えに出る為のブレーンシップ〈新月号〉である。 雪也の座るパイロットシートの後ろ、コアシートで渋面をしているのはシオンの父、谷口貫太郎である。 貫太郎の前のパネルには、地球を回る衛星軌道の円が映し出されているが、ポンと弾けたそれは、この日何度目かの地軸に対しての角度変化をおこした。 『ヤナギ。スクランブルの準備に入る。間違い無い。帰還船は落とされる!』 貫太郎の言葉を受けて、雪也はシート横のレバーを倒した。 『貫太郎。計算式から外れた帰還船。上手く捕まえる事は可能なのか?』 巨大な格納庫の中。 長大なW型を支える指示具は、白い煙を出して機体を離れる。 新月号の機体は煙と同じ色。格納庫に満ちているのは、ラムダの斥力と鉄の味。 ベラレクスの浮かぶ北の海に、15年前の記憶は広がる。
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