落ちてきたワガママ

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  《‥‥テスト‥‥テスト‥‥》 ────また聞こえる。 アズは、茶色い根菜が積まれたトラクターの荷台で立ち上がった。 季節はジャガイモの収穫時期。 朝からずっと働いているから、紺色のツナギは土だらけの泥々である。 少年が見上げる茜色の空には、夕陽に照された幾筋もの細い雲。 「また遠い所からの声ね‥」 荷台の下に居るシオンは、冷たくなりだした風に2つに束ねた髪を揺らしながら、頭の後ろへ忍び込んで来る声に、耳を澄ませた。 なだらかな山が続く場所。 人々はあちらこちらにある小さな畑で、働いている。 「嫌だな‥鉄の臭いがする」 アズはトラクターの荷台から跳んだ。 そしてその後ろ。空の茜色を弾きながら、巨大な銀色の無尾翼機が、音を立てる事無く地を掠めて飛んで行く。 「サフスのローズマリー!」 シオンの横に着地して、慌てて後ろを振り向いたアズの黒髪を、銀色の翼が巻き上げた風がもみくちゃにする。 翼長40mの銀色は、エンジンという物を載せてはいない。 斥力(せきりょく)と呼ばれる、物を遠ざける力で飛んでいる。 《ザ───ッ どうしたんだニイフ! 力が全然じゃないか!》 アズとシオンに、その銀色の中の言葉が届く。 巨大な翼は、枯れ葉や枯れ草に渦を巻かせながら、ジャガイモの収穫時期の夕暮れ時の空を、東に向けて大きく旋回して行く。  
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