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アズが、翼の付け根の突起を掴んで湿った枯れ草の上に降りると、松の木の後ろから出て来たシオンが横に立った。
「チェッ」
軽い舌打ちで翼の放棄をシオンに知らせると、アズは翼の上のロブロ・ゼッタを見た。
「良いのか? ヤナギ」
「良いも何も、早く行きなよ。それから、ラムダナイフは貸しておくだけだから。返してもらいに行くから」
少佐も何かを考えるふう。
暫く黙ったあと、くるりと背中を見せた。
「その時には、約束通りこのローズマリーを君にやろう。グッドラック」
翼の陰に少佐が消えると、ローズマリーの二重の扉が閉まる音が聞こえた。
「少佐のパートナーはラムダを使えるの?」
「使えない方が変だよ」
「‥‥‥」
歩き出したアズは、怪訝そうに自分の顔を覗き込んでいるシオンの顔に、ニイフ・キーのイメージを重ねた。
「使えない方がおかしい‥」
鉄の匂いが濃くなり、枯葉は渦を巻き、銀色の翼はゆっくりと浮いた。
若干首を下にしたそれは、右に回転しながら高度をあげ、機首を上に向ける動作に移ると、今度は左回りを始める。
「大丈夫かしら?」
「大丈夫」
ローズマリーの躊躇うような回転が止まった。
そして深呼吸をしているかの様な少しの時間を使うと、西を目指して激しい加速を始めた。
「あ! バイクの鍵‥‥」
アズがそれに気が付いた時には、ローズマリーは小さな星に紛れてしまいもう見えない。
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