ニイフ・キー

8/23
前へ
/300ページ
次へ
[アズ様、あなたも大分疲れているでしょう。シオン様とあなたの思考波はお強い。お2人でお眠りになられても、この機体は飛べます。少しお眠りなさい。東京は荒れていますから] 「うん──」 確かに疲れた。 アズはヘルメットを取り、パイロットシートの尻を前にずらして、脱いだそれを腹の上に置いた。 カシャリと音がした。 ツナギの胸ポケットの中、ラムダナイフに何かが触れている。 「あ‥‥」 ラムダナイフに触れているのは、クロッカスが投げたネックレスである。 第3物質が練り込まれている。 「クロッカス‥‥」 後ろのコアシートからは、シオンの微かな寝息が聞こえている。 アズも目を閉じて、手にした銀色のそれを額の上に載せた。 カシャ カシャ 機械類の小さな音が響き、アズの意識は深い別宇宙とのハザマに沈んで行く。 (何だ? やけに明るいじゃないか‥あそこに立っているのは、父さんとシオンのお父さんじゃないか? 小さな子供‥シオンか? いや、紅い髪。シオンは栗色の髪‥‥) クロッカスの首飾り。 ここにもヤナギ・ユキヤの記憶。 淡い疑問に包まれながらも、アズの意識は、深い深い処へ落ちて行く。
/300ページ

最初のコメントを投稿しよう!

97人が本棚に入れています
本棚に追加