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アズの耳、それからシオンの耳の奥で、カチッと軽い音がした。
次に鼻から入って口の中で広がる鉄の味。生温かくドロドロとしている。
アズは慌てた。自動飛行を解除して操縦桿を握った。
旋回を試みてそれを倒したが、重かった筈の手応えは嘘の様に軽い。
軽いのは4つのフットペダルも同じで、4つそれぞれがアズのつま先の力に抵抗をせずに、カンカンと床を叩く。
「シオン、脱出する!」
アズはそう叫んでシート横の赤く小さいレバーに指を掛けた。が、これだけは重い。
ガジッっと鳴っただけで動かない。
「T200これって! え? 200! どうした!」
アズの問い掛けた先、パイロットシートのディスプレイは既に暗い。
色とりどりに輝いていた筈のコクピットのディスプレイは、前から後ろ、順に消えて行く。
「アズ、シャーイーのアコーサが、クリルの斥力を消しているのよ。ベネネイは落ちる」
コクピット内唯一のアナログ機器である小さな高度計の針が、グルグルと回転を始める。
「東京まで、もう少しじゃないか‥‥」
アズはもう、拳を握る事しか出来ない。
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