太陽の翼

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ベネネイの脱出用ポッドが落ちたのは、錆びたついたクレーンとこれもまた錆びた姿で積み重ねられたコンテナのある埠頭の一角である。 切り離された大きなパラシュートが海からの風に飛ばされて行く。ベネネイのコクピットは全ての電力を使い果たしてしまった。 キャノピーは油圧シリンダーの力で機会的に押し上げられ、少し離れた場所では、7機の巨大な風車が音も無く回っている。 パイロットシートの上で立ち上がったアズは、腕を組んで口をひん曲げながら、日差しを反射する海を見た。 コアシートのシオンも立って、束ねた髪を風に揺らしている。 「全てが赤錆びた色だけど、変わらないのね」 父親達の記憶である。 「変わらないというよりは、忘れ去られてしまった土地なのかもしれない」 〈世界のワガママ〉以降、サフスに実力支配されたままのこの土地には、今、どれ位の人々が暮らしているのだろう。 西と東へ、東京を捨てた人々は、雪崩の様に走ったと聞く。 その走り去った人々の中には、幼い頃のアズとシオンもいたはずである。 「シオン、この景色に不釣合いだと思わないかい?」 「そうね、趣味が良いとは言えないかも」 倉庫が立ち並ぶ中の広い道を、赤いスポーツタイプの車がこちらへ近付いてくる。 小型風車1機分の電力は無駄にしているだろう。
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