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想像した以上に狭い電気自動車の後部座席である。
アズは膝を抱える様にして、そこで背中を丸めた。
タイヤが回り出すのと同時位に、倉庫の陰からサフス軍の装甲車が現れたのだが、ハンドルを握る柿丸は速度を上げるでもなく落としもしない。
装甲車は機関銃の銃口を赤いスポーツカーに向けて通り過ぎ、十字路を曲がった柿丸がアクセルを深く踏んだタイミングで漸く止まりUターンを始めた。
──広い道である。
アスファルトは、至る所で無残にもめくれ上がったままである。
クイクイ
柿丸のつま先の動きに、スピードが素直に反応する。
後部座席の2人の背中が心地良く革のシートに押し付けられ、左右に振られる。
信号という信号は全て眠っている。
そして前方には石炭の煙を黒々と上げる巨大なトレーラー。
この土地の物流は、かろうじて生きている。
口をへの字に曲げたアズの表情を室内鏡で確認した柿丸は、前方の3連トレーラーを抜きに入った。
道路の障害を避けるためだろう。黒煙を吐く牽引車が左に車線を変えようとしているが柿丸はさらに深くアクセルを踏み込む。
その従順なスピードに柿丸は満足していると、アズには思えた。
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