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「柿丸さん、何処へ向かっているんです?」
「ふん? 柳先輩の記憶に聞けばいいさ」
鏡越しの不機嫌面同士の会話。
既に後方にいるトレーラーが鳴らすクラクションには、窓から出した手で軽く応える柿丸。
「父さんを先輩と呼ぶのは?」
倒れかけたビル。乗り捨てられたままの自動車。
父の記憶の中の華やいだ景色とは掛け離れてはいるが、確かにこの道は知っている。
(そこの交差点を左‥‥)
「そう左だ」
ブレーキ。ハンドルを左。アクセル。
(この道は真っ直ぐ‥‥)
「そう真っ直ぐ」
3つ先の信号でサフス軍の検問。
アズの不安をよそに柿丸は走り続け、兵士の誘導に従い車を止める。
『身分証を』
その兵士の言葉にも素直に従った柿丸が出したのは、サフス連合の青い星が刻印されたカード。
『お急ぎのところ失礼致しました。カキマル・カイイ中佐』
「良いよ。これが君の仕事だ」
柿丸はまた、室内鏡を見た。
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