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「ねぇシオン。そんな偶然をどう思う?」
アズは柿丸の正面の椅子に座った。
「そうそう都合の良い人生とか、あり得ない」
シオンが座ったのはその横。
「柿丸さん、牛丼屋友松のこのテーブル。父さん達が好んで座った場所だ」
「ふん」
「僕の場所には父さんが、シオンの場所にはシオンの父さん。貴方の場所にはアルミナ・ジャーン。その隣はラスカ・ラスカ。こんな偶然なんてありますかね? 僕とシオンはキランの地でその人達に会ったんです。重なり過ぎた偶然なんて‥必然だ」
アズはここ1月ばかりの自分達の行動が、誰かに作られたシナリオどうりに進んで来た気がしてきた。
「アズ君。そう哲学的に考えるもんじゃない。ラムダはね、そういう物じゃないんだ」
柿丸は口につけたグラスを離し、革の上着の内から、灰色のナイフを取り出してテーブルに置いた。
「ラ、ラムダナイフ!」
「そんなに驚くなよ。俺は現役の〈太陽の翼〉のパイロットだ。そしてあそこ、あの1番奥のテーブルを見て、何か思い出さないかい?」
心臓が何故だかバクバク鳴る。
本棚のある友松屋の1番奥のテーブル。
父、雪也の記憶。
色褪せた表紙の分厚い本のページをめくる細い指。銀色の髪。
「おいおい。僕はサトゥーマ・ゼアンネを知っている」
「ふん」
柿丸はつまらなそうにまた、グラスに口をつけた。
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