太陽の翼

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友松屋の親父と柿丸は、当然と言ったら当然。 昔の話で盛り上がっている。 そのテーブルの対面で、アズは松茸なる物を奥歯で噛みながら、フィルタリングから解放された雪也の記憶の中に居る。 ───『頼むよヤナギ。少しだけでいい、ラムダをおしえてくれ。日本人だけがラムダを独占して良い訳がないんだ。僕こそがこの地球上で最もラムダに愛されるべき人間であるのは間違いない。そうだろうアルミナ。そうだろうラスカ』 雪也の記憶の中のサトゥーマは、ついさっき噛み付いたばかりのキラン人に同意を求める。 『サトゥーマ。その話‥聞き飽きた』 最初に席を立ったのはアルミナ・ジャーン。 『馬鹿げている。サフスの宇宙局は、とうの昔にその話は否定している』 ラスカ・ラスカがそれに続く。 『あ‥あ‥』 友松屋を出て行くキラン人女性2人を、サトゥーマ・ゼアンネは何故だか涙を流しながら見送るのみである。立ったまま、腕をだらりとさせて見送るのみ。 その下がった右の肩を、シオンの父、谷口貫太郎が優しく叩いた。 『サトゥーマ。僕は全否定はしないよ。君が人類初の有人木星探索機の中で生まれたって話。サフス宇宙局が探索期間を大幅に短縮した理由はその話抜きでは、説明し難いからね』 貫太郎は自分の意見に対する同意を、雪也にも求めた様である。 けれども雪也の吐いた言葉は、それとは全く関係の無いものだった。 同期の研究生達の会話をよそに、先程から左耳のイアーノウの放送を聞いていた雪也。 『キランタワーが‥倒壊したらしい』 ボソリと言った。
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