太陽の翼

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「さぁ、そんなにゆっくりもしていられない。2人共行くぞ」 柿丸は、立ち上がった。 「何だよ、もう少し飲んでいけば良いのに」 友松屋の親父が慌ててカウンターの奥に消えたのは、3人へ何か手土産でも持たそうとしているのだろう。 「快衣まだ行くなよ。少し待ってろよ」 アルミ製の弁当箱へ飯を詰めている。 「柿丸さん。キランタワーが倒れなかったら、世界のワガママは起きなかったんでしょう?」 アズは座ったままで柿丸を見上げた。 思考波タワーの建造には思考波タワーの建造で対抗する。世界を二分する勢力は、ある時期それでパワーバランスを保っていた。 力の均衡が崩れた時、押しつぶされそうになった側は越えてはならない一線を見失う時がある。 「アズ。人は皆ワガママさ。君だってそうだ。違うか?」 アズの瞳の奥の奥まで、柿丸は上から覗き込んでいる。 「死んだ親に託されたからとはいえ、サフスタワーを倒す事のみ考えて生きている。つまりはワガママさ。ワガママはワガママを呼んで、最後に大地はひっくり返っちまう」 友松屋の親父が、カウンターの中から紙袋2つを提げて出て来た。 「牛丼屋に来て牛丼を食べないなんてイカンからな」 紙袋は1つづつ、アズとシオンに持たせた。 柿丸は既に横開きの戸を開けて、テーブルに背中を向けている。 「柿丸さん。貴方だってワガママな筈だ」 皮のジャンパーはそれには答えずに、歩きだしている。
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