太陽の翼

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正午近くになっている。 柿丸のスポーツカーには既に若いサフス兵が乗っていて、柿丸に軽く敬礼をするとバックのまま商店街の細い道をさがって行った。 柿丸は革のズボンに両手を突っ込んで、大股で歩く。 自然後ろをついて行くアズとシオンは小走りである。 柿丸が目指す場所は丘の上の宿舎であるとアズはふんでいたのだが、どうやら違った。 3人は4階建のそれを右手に見ながら進んでいる。 「変だねシオン。ここから先の記憶がない。フィルタリングが外れたのに、何故だろう」 友松屋から50m程の街並みは、雪也の青春の記憶と共に思い出す事が出来たのであるが、黄色い葉っぱを全て落としてしまった大きなイチョウの木から先は、全く始めて見る光景である。 「アズ‥私ね」 「何?」 シオンは友松屋にいた時から、何処となく寂しい顔をし続けている。それにはアズも気が付いていたが、新しく知った過去に戸惑っているだけかと思っていた。 「フィルタリングが外れた時にね、私は直ぐに探したの。お父さんの記憶の中のお母さんを、けれどね、けれど、お母さんは何処にも居なかった。私はずっとずっと、お父さんの記憶の中で、お母さんを探して来たのに」 アズは言葉に詰まった。 2人は物心がついた時には東北の農村に居た。 アズの祖父の家で、母という言葉から目を逸らして、逸らされて育った。 「シオン‥‥あのさ‥」 「ラムダなんて秘密だらけさ。太陽の翼計画だってそうだ。母親ですらお前達には秘密」 柿丸が歩速を緩めたのは、街並みから浮いた感じのする、地下鉄の入り口の前である。
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