太陽の翼

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それは地下へ続く暗い階段である。無意味に感じられる程に長い。 「中佐、待って下さいよ。僕は中佐と違って暗闇が苦手なんですよ。おまけに、この鉄の味。気持ち悪くって気持ち悪くって」 「少尉、ドーマのパイロットとしてサトゥーマ・ゼアンネにただ1人選ばれた貴様だ。暗闇にもラムダの味にも耐えてもらわねばならん」 階段が終わり、1つ目の重い扉。 「ああ、これですね。魂喰いの扉ってやつ」 柿丸と少尉の後ろについていたアズとシオンには、2人の会話が分からない。サトゥーマに選ばれた男と魂喰いの扉。 「アズ、シオン。ここから先は太陽の翼のテリトリーだ。お前達には見えるだろう? この扉。東京を占拠した後も、サフスはここから先へは進めなかったのさ。この先へ行こうとした者の全ての魂は、ラムダに吸い取られた。ラムダなんてそんなもんさ」 思考波の関係であるのか、その扉は石で出来ている。真ん中にやや凹んだ所があって、柿丸は懐から取り出したラムダナイフをそこへ触れさせた。 重い扉はゆっくりと開いて、鉄の枠との隙間から細い光が漏れてくる。 「魂喰いの扉でしょう! 少尉さんは大丈夫なの?」 柿丸の言った事が本当であるならば、何処か頼りの無い青年下士官の魂はこの瞬間にもラムダに喰われてしまう。 けれども少尉は、ここで表情をかえる。 「ふん。これはナチュラル君。心配してくれてありがとう。でもね、サフスだってこの15年の間ただ眠っていた訳じゃないんだよ。僕の名はヴィト・ヒン。サトゥーマ・ゼアンネに選ばれた男だ」 ヴィト・ヒン。 薄ら笑いの後、ブラウンであった瞳の色が、赤く変わってゆく。
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