太陽の翼

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「日本人、いや、太陽の翼計画に携わった者はラムダに触れるなと言うばかりで何も教えてはくれない。まぁ、計画を体系的に理解している人間などほんの一握りだろうけど。けれどもサトゥーマ・ゼアンネとサフスの新物質研究者は頑張ったのさ。世界に出回った極少量のラムダをかき集めてくれた」 細い光を背中から受けるヴィト・ヒンが灰色の軍服のポケットから取り出したのは、黒いタバコケースの様な物。 それを半分に割り、中から取り出したのは小さな赤い玉。 「ナチュラル君達、これが何だか分かるだろう? 僕の心臓にはこれと同じ物が埋め込まれているらしいんだ。サトゥーマ・ゼアンネが言っていた。そしてアデュム作戦が開始されたらね‥‥」 ヴィト・ヒンは震えている。 細い光の中で震えている。 「ち、ちょっと待って少尉。駄目だよ! そんなことをしちゃ駄目だ!」 慌てるアズとは対照的にヴィトの後ろ、柿丸快衣は冷やかな目をしている。心持ち顎を上げている。 「さあ、ナチュラル。いや、ラムダキーの諸君。ドーマを目覚めさせてくれ」 「よ、止せ!」 ヴィト・ヒンはその震える口に赤い玉を放り込んだ。 そして涙を流しながら、口の中のそれを、ガリガリガリガリ奥歯で噛んだ。
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