太陽の翼

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「ば、馬鹿!」 そう叫んで伸ばされたアズの腕はヴィト・ヒンの右手が払い、前のめりになった胴にシオンはしがみ付いた。 瞬く間に赤みを帯びたヴィトの髪はその足元から巻き上がる風に逆立ち、ラムダを腹に収めた赤い目とよだれを垂らしてパカリと空いた大きな口は、グイッとアズの額に近付く。 「奢るなよナチュラル。ラムダをもっと教えろ!」 冷たい感触とゴツリという音はヴィト・ヒンの後頭部。 柿丸が素早く抜いたピストルの銃口が、グリグリと逆立つ赤い髪に絡まり付いている。 「 おふざけはそこまでだ少尉。日本人に危害を加えたなら全てのラムダは破壊するし、アデュム作戦にも俺は協力しない。15年前からの約束だ」 柿丸の氷の様な視線が、ヴィト・ヒンを見下している。 そしてその冷たさは、ゆっくりと動いてアズの黒い瞳に焦点を合わせる。 柿丸の喉は反り続け、指先はピストルの引鉄にしっかりと掛けられたままである。 「アズ。1度しか言わない。お前の言う通り俺も我儘だ。だから、俺の邪魔はするな。良いか?」 銃口をヴィトから離した柿丸は、空いている方の左手で赤い髪の襟首を掴み、ピストルを捨てた右の拳を力任せに振り抜いた。 ビチッという音が、暗い段々に響いた。 「な、何だよう」 ヴィト声も段々に響いた。
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