太陽の翼

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シャッターをくぐり再び暗い場所へ。 埃っぽく、冷たく、靴音は遠くの壁で弾かれる。 呆れる程高い場所の照明の1つに灯が入ると、巨木の根を連想させる太いケーブル細いケーブルが姿を現し、それらが作る長い影の数々は、遥か遠くの壁でウネウネと蛇の様な呼吸を始める。 照明の数は徐々に増えて3つ4つ。 そして、暗がりから来訪者の元へ歩いて来る白衣の男女は5人。それぞれが分厚いファイルを脇に抱えて、緑色に小さく光る器具を、こめかみに付けている。 アズは照明の数を7つまで数えてやめた。 まだ光が届いていないこの空間の、更に奥から届く不快な量のラムダがアズのよそ見を許さないから。 「アズ!」 高い場所からの光量は増えて、シオンはアズの手を強く握り返す。 「柿丸中佐。第3次帰還船の予測経路と防御システムの中和計算式です」 白衣の女が柿丸へ渡したのは、透明な薄いカード。 「ひゃひゃひゃ。ドーマだ。別宇宙への意識の懸け橋だ! サフスも沢山の金を使ったぞ。さぁ、俺を連れて行ってくれ、ひゃつ」 泥酔者に似たヴィト・ヒンの進む先のそれ。 「中佐。貴方が約定外の行動に出たら、我々は躊躇わずに、全ての太陽の翼をこの世界から消します」 「好きにすれば良いさ」 白衣の男の忠告を顎で聞いた柿丸快衣の視線の先。 漆黒の翼は、静かに息づいている。
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