太陽の翼

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「ドーマって言ったわよね。アズ、これは私の方の記憶には無いわ」 「計画段階だった第4次太陽の翼計画、ヴィト・ヒンはサフスが大量の金を使ったと言っていた。恐らく、世界のワガママの後に、残された図面から新たに造られた機体だ」 全ての照明が灯された地下の空間。 巨大な翼を畳んだ漆黒の機体は、天井から下げられた無数のケーブルに繋がれて、深い眠りの中にいる。 「さあナチュラルよ、ドーマを目覚めさせてくれ。僕は早く飛びたいんだよ。ラムダと、いや、別宇宙との会話がしたいんだ」 赤い瞳をギラつかせるヴィトを無視して、柿丸が黒い機体の喉元のハッチを開けた。 クイクイと機会的な音の後、銀色の筒状のモノが横に伸びた。 銀色はラムダの匂いでも嗅ぐのか、ヴィトの前でくねくねして次は柿丸の前。 柿丸がまた顎を上げると、漸く少年と少女に気が付いたらしく身構えた2人の処へ進んだ。 「アズ、シオン。お前達の仕事だ。ドーマを眠りから覚ませ」 「仕事‥‥」 銀色の先はただ丸い。アズは少しの躊躇いの後にそれへ手を添えた。 銀色の至る場所から赤い光が漏れると、ドーマに絡み付いたケーブルの数々は、白い煙を吐きながら上方のドラムに巻き上げられてゆく。 シオンがアズの手の甲に自分の手を置くと、鈍い鉄の音が地下の空間に響いて、照明器具の遥か上の方から自然の光が差し込み始めた。 無数のケーブルはまだばたついたままで、それらの間を縫って真昼の光が落ちて来る。 《止せば良かったものを‥‥》 声が聞こえる。
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