太陽の翼

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───ここは? アズの意識が目覚めたのは、霧雨の降る西東京飛行場である。 アズ、いや若い日の柿丸快衣は、物陰で銃を握っている。 視線の先には帰国のためローズマリーに乗り込もうとしているサトゥーマ・ゼアンネ。 銃口をサトゥーマに向けると柿丸の呼吸は乱れて、雨の中の記憶はキラリと輝く1枚の鏡となり、細かく砕けて飛び散った。 柿丸とヴィト・ヒンを乗せたドーマの巨体が、斥力の風にゆっくりと押し上げられてゆく。 アズはシオンを抱えたまま吹きつける風に横へ飛ばされ、冷たいコンクリートの壁に叩きつけられた。 薄れて行く視界の中で響く湿った銃声。 『や、柳先輩、殴る事はないでしょう! 俺は見たんだ! サトゥーマは保管棟から盗み出したラムダを喰ったんだぜ。そして同室の俺に毎晩毎晩世界統一政府の是を説く。実験機W22が墜落した日、奴が何処に居たかは先輩だって知っているでしょう? W22の墜落地点に居たんですよ!』 柳雪也は、柿丸を悲しい目で見下ろしている。 霧の様な雨がその髪を濡らして、柿丸、いや、アズはそれに触れたくて右手を伸ばした。 『アズ。考えれば考えただけ、翼は重くなるんだぜ。俺達は、ただひたすらに軽く行くんだ。そして翔ぶ』 けれども雪也が応えた手にアズの指先は触れる事が出来ない。 霧雨に紛れて雪也のイメージが消えると、アズの手はただ高い場所から差し込んで来る日の光だけを掴もうとしている。 ドーマの残した鉄の味が、口の中いっぱいに広がった。
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