新月号

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「こら君達、その車に触っちゃイカん! 柿丸中佐の宝物だぞ!」 演説を終えた若い兵士の声を背中で聞きながら、アズは少し前を走るシオンに銀色の鍵を投げた。 柿丸がアズの額に押し当てたブレスレットに絡められていた銀色の鍵。 「バッテリーの残量は大丈夫かしら?」 シオンはアズが投げた鍵を少しだけジャンプして掴むと、それを赤いスポーツカーの左側の扉にコツンと当てた。 利便性の疑問通り、縦開きのそのドアは、駐車場の低い天井にカタリと当たる。 「行ける所まで行くのさ。電池か切れたら、そこで考える」 アズは助手席にスルリと滑り込んだ。 縦開きのドアは、自分の力でガシャリと閉めた。 「決まって私の父さんがハンドルを握ったのよね」 「アハ、僕の父さんは助手席でお昼寝がお決まりのパターン」 「アズはお昼寝ダメだからね。しっかりとナビして頂戴!」 「おい君達! 勝手にそんな事しちゃイカンだろ」 長演説の兵士が助手席のガラスを叩いているが、赤いスポーツカーはスルスルと走り出した。 助手席のアズは窓から顔を出して、後ろに向かって言った。 「アデュム作戦とか、斥力砲スカラとか、みんなみんな勝手だからね」 宿舎を出たら坂道である。 正午を少しだけ回った時間。
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