新月号

7/19
前へ
/300ページ
次へ
「近いね。第2湾岸線に入れば追いつけそうな感じ」 アズはお決まりのラムダナイフを額につけた格好。 右の頬にある擦り傷は、地下空間で壁に打ちつけられた時にできたものだろう。 「ねえアズ」 「んん?」 「アズはさ、落ちたローズマリーのコクピットで見たんでしょ?」 「ニイフ・キーのこと?」 「そう」 第2湾岸線は綺麗な道である。アスファルトがめくれたままの他の道路とは違い、復旧工事は完全に終わっている。 時々、電気式の多連トレーラーとすれ違うのは、おそらく巨大な貨物船が横浜の埠頭にいるからだろう。 東京というコンクリートに覆われた街では、食糧の自給はほぼ不可能である。 人々が食する食糧の殆どはサフス本土から輸送されたものであり、流通する貨幣はサファである。 「ニイフ・キーはね、ドーマのコクピットに居た異能体とそっくりな顔をしていた」 アズは助手席のシートに深く座り窓の外を見ている。 倒れたビルがあちらこちらに在り、発電用の風車もあちらこちらに在る。 「つまりは私に似ているのね」 シオンは案外、あっさりと応えた。 (強いなシオンは‥‥) ラムダナイフを膝の上に置いたアズは、下唇を指でつまんだ。
/300ページ

最初のコメントを投稿しよう!

97人が本棚に入れています
本棚に追加