新月号

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「良し。バッテリーの残量はあと30分は保つ」 シオンの側にある計器類を覗いてアズは頷いた。 「けれどアズ。言い換えれば、上手く少佐達を奪取出来たとしてもそれは30分しか逃げられないって事じゃない?」 「逃げる?」 長いトンネルに入った。 照明の無い暗い道を、赤いスポーツカーは進む。 アズは何となく唇を尖らせた。 「ねえシオン。僕等は逃げる為に東京へ来たのかなぁ」 「そんな事はないわ、けど‥‥」 朝から多くのブレーンシップが四方へ飛んで行くのを2人は見ている。もし無事に少佐達を連れて西東京へ着けたとしても、そこには1機のブレーンシップも無いとシオンは言いたい。 トンネルを抜け左に海が見え出しても、アズは口を尖らせたままである。 「むくれた?」 第2湾岸線は海に沿って緩やかなRを描いている。 そしてその曲線の先に、濃緑色の軍用車2台が見える。 「むくれちゃいけないさ。ただ、さっきから呼吸が苦しいんだ。それが段々と強くなってくる」 「ニイフ・キーに反応してるんじゃない? 今回の作戦名は何? X? Z? 私はまた思考波を送る係りで良い?」 シオンはハンドルを切りながら、アクセルを目一杯に踏んだ。 「シオン‥駄目だ‥息苦しい‥僕達は何か大事な記憶を忘れているんだ」 「らしくないアズ! 作戦名はSに決めた。新月号のS! アズが思考波の係! 私が突っ込むわ!」 赤い色は濃緑色の1台を右から追い抜いた。 「新月号のSだって?」 濃緑色の2台目は左から抜いた。
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