新月号

9/19
前へ
/300ページ
次へ
《ザ──ツ、ドーマの大気圏脱出を確認。飛行目的を太陽の翼計画第3次帰還船の鹵獲に絞る》 柿丸快衣の車だから、車載型のイアーノウはサフス軍の軍事回線にチャンネルを合わせている。 第3次帰還船は、墜落した第2次帰還船の直ぐ後に木星へ向けて発射された物である。 第2次帰還船の地球への墜落と大地のえぐれ。第3次帰還船は非常時のプログラムに従い、木星から帰っても随分と長い間、地球の衛生軌道で時間を潰してきた。 それが今、その軌道を変えて地球に近付いているのは、単に機械的な故障というのがサフス軍の技術者達の見解である。 仮にドーマの鹵獲(ろかく)作戦が失敗して、第3次帰還船が地球の大気圏で積んでいるラムダごと燃え尽きたらどうなるのだろう。 (どうなるんだ‥‥) そんな考えがアズの頭をよぎる。 追い抜いた軍用車の中には間違いなくニイフ・キーがいる。それは間違いない。 彼女が大人しくそこに居るという事は、その思考波を抑えるだけの異能体もいるという事。 そんな考えも頭の中に浮かぶ。 そして息苦しさは続いている。 「ダメだ。深く考えるな」 シオンがブレーキを踏んで車が停車すると、アズは手動で右の扉を上へはね上げた。 外の冷たい空気が車内に入り込むと、アズの息苦しさはツナギの内から転がり出て黄色い矢印の立体映像として姿を現す。 「アズ! あなた、こんな時に何してるのよ!」 シオンは既に走り出している。 「知るかよ! えいもう、僕も行く」 黄色い矢印は駆け出したアズをすっぽりと包んで、海の方角を指している。
/300ページ

最初のコメントを投稿しよう!

97人が本棚に入れています
本棚に追加