新月号

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《おいお前、何だその矢印は》 《着ぐるみ? 仮装だね》 軍用車からの声が届いた時には、アズとシオンの意識は砂漠の中にある。 「アズが出遅れるから、先に思考波を飛ばされちゃったじゃない!」 「だって突然の矢印だよ。僕だってビックリするでしょう!」 砂漠に吹いている風は直ぐに勢いを増し、砂嵐となった後は簡単にアズとシオンの意識を占領する。 強い思考波のイメージはそれを受ける人の五感を占領したから、ロブロとニイフを奪取しようする2人は、顔に当たる砂粒の痛さに目も開けられず、軽くくるぶしまで埋まってしまう砂で前にも進めず後ろにもさがれない。 「アズ。敵は思考波戦のプロ!」 「そもそも軍人さんでしょ? 戦いのプロだから!」 《そうだお子ちゃま達。何の冗談かは知らんが、火遊びはやめてもらおう。こっちは今、非常に急いでいるんだ。その変な矢印を引っ込めて、サッサと道を開けなさい》 軍用車の中の異能体は、突然の襲撃者を単なるおふざけ程度にしか捉えていない風である。 「矢印‥‥ロブロ・ゼッタ‥‥ニイフ・キー‥‥砂嵐‥いや、砂嵐は関係無い。ニイフ・キー、紅い髪の女の子の記憶! 矢印の出処はこれじゃん!」 アズがツナギのポケットから取り出したのは、EE、いや、クロッカスのネックレス。 緑色のイメージは砂漠に落ちる1粒の雨の雫となり、砂に染み込んだ緑色は次の雨粒を大地に誘う。 「ありがとうクロッカス」 砂漠の大地に降り注ぐ雨。 アズは銀色のネックレスを首で結んで、クルクルっとラムダナイフを手に持った。
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